春先だったかさだかではないのだけれど、
軒先が暖かったので春かもしれない。
用のあるというじいさんに連れられ、山奥のおばあさんの家へ行った。
典型的な田舎の家で山の麓に家があり、傍に田んぼ、庭に水仙、奥の方に畑があった。畑はおばあさん1人で手入れできる程度の広さだった。
田舎特有のぼんやりとした日があたり、眩しいとは縁遠くぼけっと日にあたったりウロウロして30分ほどを過ごした。
じいさんが帰るぞと言うと、おばあさんはちょっと待ってと言い、湿った庭先に行くとふきのとうを何個かもいで新聞にくるんでくれた。山から移したのよ、ふきのとう。毎年出来るの、と言った。とても羨ましいですと本心を言い、ありがたく私が受け取った。ちょうど良いこぶりのふきのとうで見るからにおいしそうだった。
手ぶらで返せないというおばあさんの心意気を感じた。どうやって食べたかは覚えていない。天ぷらにしたのかふきのとうの味噌にしたのかどちらかだろう。
春になるたび、思い出すのだが何年か前に元気にしてる?と聞くと亡くなった。コロリと死んだと聞いた。顔も思い出せない。ただ小さいおばあさんだった。